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作曲家ベートーベンの全ゲノムシーケンス解析

3月26日は1827年にLudwig van Beethovenが亡くなった日。先週、CNNなど海外のニュースではケンブリッジ大学など主にヨーロッパの大学と研究機関が発表したベートーベンの毛髪からの全ゲノムシーケンス解析の結果*について詳しく報道していました。

On March 27, 1827, the day after Beethoven’s death, two of his associates discovered several documents stored within a hidden compartment in his writing desk,…というハイリゲンシュタットの遺書**の発見のエピソードに触れた歴史小説さながらの序文から始まる原論文*では、ベートーベンのもとされている8つの独立した毛髪の束を分析、そのうちの5つが1 人のヨーロッパ人男性に由来するという結果から、5つは本物のベートーベンの毛髪であると見なして、毛髪から全ゲノムシーケンスを実行した詳細が記載されています。

今回のゲノム解析の結果からは、有名なベートーベンの聴覚障害や胃腸障害の遺伝的な要因の特定はできなかったものの、ベートーベンが肝臓病の遺伝的素因を持っていたことを明らかにしたそうです。別の解析からベートーベンは死の少なくとも数か月前からB型肝炎に感染していたことも明らかになりました。ベートーベンは長い期間に亘ってアルコール消費が多かったことでも有名な記録もあることから、重度の肝疾患がベートーベンを死に至らしめた原因だったと論文では結論しています。

全ゲノムシーケンス解析のコストが劇的に下がっていること、また今までできなかったような詳細な解析もできるようにゲノムシーケンス技術も進んできていることから、今を生きている我々だけでなく先人に対しても全ゲノムシーケンス解析を行なうと、新しい歴史的発見もできるようになって、今までとは異なった歴史観を我々に与えるようにもなると思います。

このような新しいゲノム解析の応用にご興味のある方は是非ともご一報ください。

*Begg et al., Genomic analyses of hair from Ludwig van Beethoven, Current Biology (2023), https://doi.org/10.1016/ j.cub.2023.02.041

**ハイリゲンシュタットの遺書: ベートーベンが1802年に弟達に宛てた手紙。自分の病気の苦しみ、それに打ち勝って芸術を完遂したい思いが記されている。死後、自分の病気を説明して公開するように弟達に依頼した内容を含んでいることでも有名。

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