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転写複合体

転写と聞くと、昔の教科書に載っていた挿絵の、一本のDNAの上を一つあるいは数個のRNA ポリメラーゼが走行しRNAを産生するイメージではないでしょうか?

人工的な環境で分子操作をするときはこのイメージが現実的なのかもしれませんが、実際の生物の細胞の中では、このイメージは原核生物でのみ正しく、ヒトを含む真核生物では最近ではあまり正しくはなさそうです。

ヒトを含む真核生物では、最近では、転写は多数のエンハンサーと多数のプロモーターが混在し、多数のRNA ポリメラーゼが集合した工場のような転写ユニットを作っていて、そこでRNAが産生されるようなイメージになっています。この転写ユニットはクロマチンが自分と近接することが多い特徴的なトポロジー関連ドメイン (TAD) として知られる構造の内部に含まれています。 TAD の境界ではCTCF 、コヒーシンなどの構造タンパク質の結合が多く見られ、遺伝子調節はアクティブなエンハンサーとプロモーターの物理的な接触を介して、相分離凝縮物と呼ばれる膜のない転写的に活性な構造内に含まれるTAD の内部の転写ユニット内で発生します。 ゲノムは3次元的な階層構造を作り、組織や細胞など環境に応じて異なった形で動的にトポロジーを変化させます。TADの中で転写因子 (TF) 結合は高度に濃縮され、活性化ヒストンと共局在する数十キロベースにわたる調節領域であるスーパーエンハンサー (SE) によって遺伝子の発現は調整されていると言われています。ヒトゲノムの 3 次元 (3D) 構造は組織的な複数のレベルにわたって制御されることで遺伝子発現の緻密な時間と空間のパターンが得られ、その結果、タイミングよく形態形成や機能の調節がなされるのだと考えられています。

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