A、T、C、Gの4塩基の配列の組み合わせによる1次元でのゲノムの情報が本質的ではあるのですが、ゲノムの三次元構造が重要になる現象がいくつか知られています。ゲノム構造のエピジェネティックスに関係した典型例がトポロジー関連領域(topology associating domain (TAD))です。TADは、ゲノム各領域のトポロジカルな関係を調べるchromosome conformation capture法と呼ばれる方法から得られた、CTCFとコヒーシンといったインシュレーターにより区分けされたクロマチン構造上でメガベースから数十ベースの大きさをもつ領域です。クロマチンはTADの領域外でも相互に近接することもありますが、その領域の中では自身に近接することが極めて多く、かなり階層化された構造を持っていることからトポロジー関連領域(topology associating domain (TAD))と言われています。
私たちのゲノムには、TADと呼ばれる構造化されたメガベースの大きな領域は 2000 ほどあるそうです。一つのTADの中には、一つないし複数の遺伝子とともに、その遺伝子発現を調節するエンハンサーが存在していることが多いようです。構造上、一つのTAD内のエンハンサーは隣接するTADに影響しないように原則隔離されており、重要な遺伝子が間違った時期や場所で発現できないようになっているとも考えられています。
TAD間の境界が変異により壊れると隣接するTADに存在するエンハンサーの影響が及んできて発生異常が起こることも実験的に示され*、TADが3次元的に複雑に絡み合ったゲノム内で、エンハンサーの働く区域を限定し、遺伝子発現の安定性を確保するための必須の構造であることも示されています。ゲノムは構造化され、その階層化された構造自体が重要な情報として発生や進化に関わっていようです。
* Lupianez et al., 2015, Cell 161, 1012–1025