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ブラックホール

今日10月19日は、ブラックホールの存在を予測した物理学者のチャンドラセカール*の誕生日。NASAのX線観測衛星のチャンドラはこの人にちなんで名づけられたそうですが、インドではチャンドラは月の神を表すそうです。

1930年代、ケンブリッジ大学に留学するためのインドからイギリスへの渡航途中の船上で、チャンドラセカールは白色矮星の質量には上限(今ではチャンドラセカール限界と言われています)があることを一般相対論の方程式から導き出したことで有名です。チャンドラセカールは留学先のケンブリッジ大学で、量子力学と一般相対論を駆使して導いた理論的な結論として、質量の大きな恒星は押しつぶされて中性子星かブラックホールになることを指摘しました。

ケンブリッジ大学で師事していた当時の学会の大御所アーサー・エディントン**からは、ブラックホールの存在は徹底的に批判され、過酷な仕打ちも受けたようです。チャンドラセカールはやむなく米国に移住し、急速に発展した核物理学のおかげもありそこで評価されるようになりました***。

ブラックホールはその実在を示す実験的なデータが1990年頃になって出てくるようになりました。最近ではブラックホールの直接撮影が成功したという報告がいくつかなされ、その存在はほぼ確実だと思われています。1930年代の恒星物理学、その後の核物理学の発展の息吹は、現在、ゲノム科学で感じられます。ゲノム科学でブラックホールに相当するような発見にも当社も何かの形でお手伝いできるようになれたらと思う今日この頃です。

*スブラマニアン チャンドラセカール: The Mathematical Theory of Black Hole Oxford Univ Press (1983). この本は、式の展開に途中が省略されていて、ついていくのが大変なことで有名。1983年、「星の構造と進化にとって重要な物理的過程の理論的研究」でノーベル物理学賞を受賞。

**アーサー・エディントン:アインシュタインのドイツ語の一般相対論の論文をいち早く英語圏に伝え、その天体観測による検証、恒星の成り立ちへの応用で成果を上げ、当時の学会の重鎮。20世紀前半における最も重要な天体物理学者の一人。The Mathematical Theory of Relativity Cambridge University Press (1923)などの著作。記者からの般相対論を理解している人は世界で三人と言われていますが、、、との問いに、誰が3番目だろう。。。と答えたことで有名。

*** Kameshwar C. Wali, “Chandrasekhar vs. Eddington-an unanticipated confrontation”, Physics Today: 35, 33,1982

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